旭川地方裁判所 昭和54年(行ウ)3号 判決 1983年3月31日
主文
一 別紙目録の(一)記載の土地に対する昭和五四年度固定資産課税台帳登録価格につき、被告が昭和五四年六月二日付でした原告の審査申出を棄却する旨の決定は、これを取消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 別紙目録一の(一)記載の土地(以下本件土地という。)は、もと原告の父〓本勉の所有であつたところ、昭和五三年九月八日同人が死亡し、原告と〓本實子とが本件土地を共同相続した。なお、原告の共有持分は三分の二である。
2 旭川市長は昭和五四年一月末日本件土地に対する昭和五四年度の固定資産税の評価額及び課税標準額を別紙目録一の(二)記載のとおり決定し、これを昭和五四年度固定資産課税台帳(以下課税台帳という。)に登録した。
3 原告は本件土地の登録価格について不服があるため、昭和五四年五月二日被告に対し審査の申出をしたところ、被告は昭和五四年五月二九日口頭審理(以下本件口頭審理という。)をしたのち、同年六月二日原告の右審査の申出を棄却する旨の決定(以下本件審査決定という。)をした。
4 しかし、本件審査決定は次の理由により違法であるから取消を免れない。
(一) 課税台帳の登録価格について納税者から審査の申出を受けた固定資産評価審査委員会(以下委員会という。)は、審査申出人の申請があつたときは、特別の事情がある場合を除き、口頭審理の手続により審理を行なわなければならず(地方税法四三三条二項)、この審理方式によるときは、審査申出人、市長その他の関係者の出席及び証言を求め(同条三項)、関係者に提出資料の閲覧をさせ(同条五項)、行政不服審査法所定の審理手続に従い、参考人の陳述及び鑑定要求(行政不服審査法二七条)、検証(同法二九条)、審尋(同法三〇条)等の方法で審査資料の収集に努め(地方税法四三三条七項)、これらを公開の審理手続で行なわなければならない(同条六項)。
ところが、原告は被告に対し、本件口頭審理期日において、本件土地の登録価格が本件土地より時価の高額である周辺の土地の登録価格より高額であると推測されることから、本件土地の登録価格が周辺の土地に比較して過大であること、固定資産評価の体系とそれに基づく本件土地の評価額の具体的決定理由及びその計算根拠並びに周辺の土地の登録価格を明示するよう求めたにもかかわらず、被告は本件口頭審理期日において、何ら右決定理由、計算根拠及び周辺の土地の登録価格を明らかにせず、また、前記各法条に定められた手続を履践することなく、原告に弁論立証の機会を与えないまま、ただ一回の審理で一方的に審理を打切つたものであつて、審理手続に瑕疵が存する。
(二) 地方税法に基づいて定められた旭川市固定資産評価審査委員会規程(以下委員会規程という。)によれば、被告は審理にあたり旭川市長に対し答弁書の提出を求め(同規程九条)、関係者相互の対質・証言を求め、口頭審理を終了するに先だつて関係者に意見を述べ必要な資料を提出する機会を与える(同規程一〇条)ものとされているにもかかわらず、右手続は履践されていないから手続上の瑕疵が存する。
(三) ところで、委員会は審査決定において、その理由中で少なくとも争点を明らかにし、これに対する判断、意見を記載することによつて、審査申出人に決定理由を知らせることが必要である。しかるに、本件審査決定は、「別紙目録二記載のとおり評価の根拠、評価の方法等は地方税法三八八条一項の規定に基づき適法にして適正なものである。」というのみで、本件土地の登録価格が周辺の土地の登録価格に比較して過大であるという審査申出人(原告)の主張に対し全く理由を記載していないから、これのみで取消事由に該当するものである。
(四) 本件土地の登録価格の決定にあたり、旭川市長は、固定資産評価員または固定資産評価補助員に固定資産の状況を毎年少なくとも一回実地に調査させなければならず(地方税法四〇八条)、また、固定資産の評価に関する事務に従事する旭川市職員は、原告とともにする実地調査、原告に対する質問等のあらゆる方法によつて公正な評価をするように努めなければならない(同法四〇三条二項)ものとされている。しかし、右所定の義務は履践されていないのに、旭川市長は本件土地の評価額を決定したものであるから違法であるところ、本件審査決定は右違法を看過してなされたものである。
5 よつて、本件審査決定を取消すのと判決を求める。
二 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1ないし3は認める。
2 同4の(一)のうち、審査申出人の申請があつたときは、特別の事情がある場合を除き、地方税法四三三条二項の規定に基づき口頭審理の手続により審理を行なわなければならないことは認めるが、その余は否認する。審理方法については、いずれも「申出があればできる」との規定であつて、強行規定ではなく、必ず履践しなければならないものではない。
3 同4の(二)は否認する。
4 同4の(三)のうち.本件審査決定に原告主張のとおり理由が記載されていたことは認めるが、その余は否認する。本件審査決定には、別紙目録二記載のとおり審査決定の理由が具体的に記載されている。
5 同4の(四)は否認する。なお、同項で原告の主張する事由は、原処分庁である旭川市長に対して申立てるべきものであり、被告が審査する事項ではない。
三 被告の主張
1 原告は、被告が本件口頭審理期日において本件土地の評価額の具体的決定理由、計算根拠及び周辺の土地の登録価格を明らかにしなかつたと主張するが、原告は審査申出書において、本件土地の評価額が周辺の土地の評価額に比較して割高であると主張し、更に、口頭審理においては、本件土地の評価額が他の土地の評価額と比較して正しいかどうかを審査するよう申出ていたもので、周辺の土地との比較においてのみ本件土地の評価額の高低を明らかにするよう求めていたのである。周辺の土地の評価額は所有者本人またはこれと同等に扱われる者(代理人)に限つて公表すべきであり、それを第三者に明示することは地方税法二二条(秘密漏えいに関する罪)及び地方公務員法三四条(守秘義務)の規定に牴触する。本件口頭審理において旭川市長はその旨主張した。被告はこれと同一の見解であつたので、周辺の土地の登録価格を明らかにしなかつたのである。原告は本件口頭審理において路線価図を提示し、双方で路線価の設定について質疑を行つた。以上のとおり、周辺の土地の評価額の公表は守秘義務との関連において適当でなく、更に、評価にあたつての基本的な事項である路線価について論議されている事実からみて、本件土地の評価額の決定理由及び計算根拠は明確にされている。
2 原告は、被告が本件審査決定をするについて地方税法四三三条二、三、五項、行政不服審査法二七、二九、三〇条、地方税法四三三条六、七項に定められた手続を履践していないと主張するが、被告は地方税法四三三条二項の規定により口頭審理を実施し、その口頭審理において同条三項の規定により原告及び旭川市長(実際は旭川市長の委任を受けた者)の出席及び証言を求め、更に、行政不服審査法三〇条の規定による審尋を行うことにより事実の審査を行う等所定の審理手続を履践した。参考人の陳述及び鑑定(行政不服審査法二七条)、検証(同法二九条)については、原告の請求がなく、被告もその必要がないと判断したので実施しなかつたものである。
3 原告は、被告が原告に弁論立証の機会を与えないまま、ただ一回の審理で一方的に審理を打切つた旨主張するが、被告委員長の、「この場で結論を出してもよいか。」との発言に対し、原告は、「それで私が納得するかどうかは別問題である。」と主張しており、右は原告が不服事由を充分に究明した結果の発言と考えられ、本件口頭審理は原告の了解をえて終了したものであり、被告が一方的に打切つたものではない。また、委員会は事実審査をする場合、口頭審理を通じてのみ弁論、資料の提出、審理等を行なわなければならないとは解されず、むしろ、地方税法四三三条一項には、委員会は審査の申出を受けた場合においては「直ちにその必要と認める調査、口頭審理その他事実審査を行い」と規定されており、口頭審理と並行して他の審理を行いうるものであり、更に、委員会は審査申出人が提出した資料または口頭弁論の結果に拘束されることなく、各委員が実体的に真実であると信ずる自由な心証に基づいて審査を行うものである。被告は本件口頭審理とは別に職権で調査を行ない、収集した資料をも総合して原告の審査申出事項を十分に検討し、本件審査決定をしたものである。
4 原告は、被告が委員会規程九、一〇条の各手続を履践していないと主張するが、委員会規程九条によれば、被告が旭川市長に対し答弁書を求めることを要するのは書面審理を行う場合であり、口頭審理を実施する場合には要請されていないから、答弁書を求めなかつたものである。また、被告は委員会規程一〇条三項に基づき関係者の相互対質を行い、同条の他の各項の手続も履践している。
5 原告は、被告が本件審査決定において、本件土地の登録価格が周辺の土地の登録価格に比較して過大であるとの原告の主張に対し全く理由を記載していない旨主張するが、原告は周辺の土地との比較においてのみ本件土地の評価額の高低を求めているところ、課税台帳の評価額は納税者本人または本人と同等に扱われる者(代理人)に限つて開示すべきもので、それを第三者に開示することは納税者の秘密に属する資産状況が公にされる結果を生じ、地方税法二二条(秘密漏えいに関する罪)及び地方公務員法三四条(守秘義務)に抵触する。従つて、被告は右各規定との関連で周辺の土地の評価額の開示は不適当と判断したものである。
原告は、本件土地の評価額はその周辺の土地の評価額に比較して過大であると主張するが、右主張は、本件土地よりも、その不服はむしろ本件土地の周辺の土地について存すると解されるのであつて、課税台帳に登録された事項について不服があるとはいえない。被告が審査することができる事項は本件土地の評価額それ自体の適否であり、本件土地の評価額と周辺の土地の評価額との比較において過大であるか否かの判断を下すことは被告の審査権限外である。
第三 証拠関係(省略)
理由
第一 請求原因1ないし3は当事者間に争いがない。
第二 原本の存在及び成立に争いのない甲第一、第四号証、成立に争いのない甲第二号証の一、二、第三号証、第七号証の三、原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第五号証の一ないし五、第一一号証、証人能登正博、同秦雅興の各証言、原告本人尋問の結果(第一、第二回)に弁論の全趣旨を総合すると、原告は、昭和四七年に不動産鑑定士、同五〇年に公認会計士の各資格を取得し、同五一年四月から札幌市で不動産鑑定士、公認会計士事務所を経営している者であるが、昭和五三年九月八日父〓本勉が死亡したため、本件土地の相続税を納付する必要上、本件土地の相続税及び固定資産税の各路線価を調査したことがあり、その結果周辺土地と比較して本件土地の評価額が不当に高額になつているのではないかとの疑問を抱いたこと、昭和五四年度は固定資産の評価年度であり、旭川市長は同年四月九日から同月二八日まで課税台帳を縦覧に供したので、原告は右疑問点を調査するため課税台帳を縦覧しようとしたが、同市長は課税台帳のうち本件土地以外の部分は原告の縦覧を拒否したこと、そこで、原告は昭和五四年五月二日被告に対し本件審査の申出をし、請求の理由として、本件土地の評価額が周辺の土地の評価額と比較して割高となつている旨主張したこと、本件口頭審理は同年五月二九日被告委員三名、原告、旭川市職員五名が出席して開催されたが、その席上、原告は、要旨「本件土地は、平和通り(買物公園)には近いが、側方は舗装もされていない小路に面しており、近傍でNHKやホテルの建築されている昭和通り付近とを比較すると、時価は後者の方が高いと思われるのに、昭和五三年度の相続税の路線価を参照すると前者の方が高く評価されており、相続税の路線価は固定資産税の路線価に基づいて付設されるので、同年度固定資産税の路線価についても前者の方が高く評価されていると思われるが、これは公平ではない。昭和五四年度においても、本件土地が周辺の土地と比べて高く評価されていないかどうか審査して欲しい。また、旭川市では、課税台帳については縦覧期間においても本人部分しか閲覧させない取扱いであり、本件土地と周辺の土地の評価額を比較する機会が与えられていないが、これは不当である。」と主張したこと、これに対し、旭川市当局は、要旨「固定資産の評価は、固定資産評価基準及び北海道の指示等に基づいて実施しており、これらの趣旨を十分にふまえながら、路線価を決定し、また、画地計算法等により評価額更には課税標準額を算出しているのであつて、その計算過程においても適切なものである。都市計画税についても同様である。課税台帳の縦覧について他都市の例が出ていたが、税法、地方公務員法に基づき、税務担当者として守らなければならない規定を受け、それによつて業務を推進している。更に、自治省行政実例によると、それらの閲覧は適当なものではない旨の見解があり、旭川市としてもこれを受けて忠実に守つている。昭和四八年の評価替は、七名の土地精通者から五〇三か所の地点についての意見を聞いて、その平均的価格一・三以上と〇・七以下とを除き、更に平均値をとりだして出したものが最頻地である。最頻地の価格は標準地に意見価格を付設し、北海道の基準宅地の指示平均価格とを対比し、それに〇・七を乗じて付設した。昭和五一年度については、北海道から、昭和四八年の評価額と課税標準額との間には負担調整措置により相当の差があつた、昭和四八年から同五一年にかけて評価額に対する最低の課税標準額が六〇パーセント程度の負担調整についての土地は、昭和五一年度の評価額は課税標準額の二倍をこえないよう評価替をせよとの指示であつた。本件土地とNHK側とは差があるが、それは本件土地の方が平和通りに近く、また昭和通りに面して建築されているNHKの建物の裏は日章小学校であり、両者の裏側の状況が異なるためである。」との説明をしたが、それ以上標準宅地はどこであるのか、その時価、昭和五四年度の本件土地及び周辺土地の路線価はいくらか、その根拠についての説明はなかつたこと、また、被告は、本件口頭審理にあたり、旭川市長から本件土地及びその周辺の土地の路線価図、標準宅地価格調べを審査資料として交付を受けており、審理の席上これらを参照していたが、これらを原告に明らかにすることは、地方税法二二条(秘密漏えいに関する罪)及び地方公務員法三四条(守秘義務)の各規定に抵触するとする旭川市当局の見解に従い、原告の求めにもかかわらず、これらを原告に開示することはせず、原告は右資料の内容を知る機会のないまま本件口頭審理手続は終結したこと、その後被告は右資料その他を検討して、別紙目録二記載の理由を付した本件審査決定をしたこと、ところで、固定資産税の課税標準である固定資産の価格は、宅地の場合、各筆の宅地に評点数を付設し、この評点数に評点一点当りの価額を乗じて求める方法により算出されるが、市街地宅地評価法により評点数を付設する手順は、<1>宅地を、商業地区、住宅地区、工業地区等の利用状況等の共通な用途地区に区分し、当該各地区について、その状況が相当に相違する地域ごとに細分し、当該地域の主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定する、<2>標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する主要な街路について路線価を付設し、これに比準してその他の街路の路線価を付設する、<3>路線価を基礎として、奥行、間口、宅地の形状等の影響を計量する画地計算法を適用して、各筆の宅地の評点数を付設する、<4>評点一点当りの価額は、宅地の指示平均価額(指定市町村にあつては自治大臣、それ以外の市町村にあつては自治大臣の指示に基づき都道府県知事が算定する)に宅地の総地積を乗じ、これをその付設総評点数で除した額に基づいて市町村長が決定する、<5>各筆の評価額はその筆の評点数に評点一点当りの価額を乗じて求めることとされていること、以上の事実を認めることができ、他に右認定に反する証拠は存しない。
第三 右認定したところにより、本件審査手続に違法があるか否かについて判断する。
原告は、本件土地の評価額が周辺の土地との比較において割高になつている旨主張しているが、その意図するところは、結局本件土地の評価額が適正価額に比較して過大であるというものと解せられるのであつて、これが被告の審査すべき事項であることは明らかである。
ところで、地方税法四三二条以下が固定資産の評価について特に不服申立を認め、これに対し固定資産評価審査委員会という独立した第三者機関を設けてその審査に当らせることとしているのは、固定資産の評価には専門・技術的な知識、経験を必要とする一面、多分に主観的・恣意的な要素が加わる恐れがあるところから、評価の客観的合理性を担保して納税者の権利・利益を保護しようとする趣旨に出たものと考えられる。なかでも、審査申出人の申請があつたときは、特別の事情がある場合を除き、口頭審理の手続により審査を行うこととしているのは、右の趣旨を徹底するため、審査申出人に対して手続参加の機会を与えようとするものであつて、この趣旨からすれば、口頭審理の手続においては、審査申出人が不服事由を特定し、明らかにするために合理的に必要とされる範囲で評価の根拠、方法、手順等を了知できるような措置をとるとともに、明らかにされた不服事由について審査申出人に反論の主張と立証の機会を与えるべきものである。もつとも、法が、固定資産税の迅速な賦課、徴収という公益目的を達するため、審査決定は審査申出の日から三〇日以内にしなければならない旨規定している(法四三三条一項)ことからすれば、委員会における口頭審理手続は民事訴訟の口頭弁論におけるごとく口頭審理を通じてのみ資料の収集をはかるべきことが要請されるものではないが、口頭審理外で収集した資料については、口頭審理において審査申出人に反論の主張、立証の機会を与えるべきであり、これを怠るときはその審査手続は公正を欠き違法となるというべきである。
原告は不動産鑑定士、公認会計士の資格を有しており、評価の手順については専門的知識を有しているのであるから、被告は、口頭審理外で収集した資料である標準宅地価格調べ、本件土地及びその周辺の土地の路線価図等の資料のうち、原告の不服事由を明らかにし、かつ明らかにされた不服事由に対する原告の反論の主張、立証の機会を与えるのに合理的に必要な範囲のもの、すなわち少くとも本件土地の周辺の土地の評価額または路線価及び路線価付設の基礎となつた標準宅地の所在位置、その時価、算定根拠を、旭川市長をして、または自ら、原告に対して明らかにすることが必要であつたといわなければならない。しかしながら、被告はこの措置に出ることなく、本件口頭審理において、わずかに旭川市当局から、本件土地が平和通りに近いとか、NHKの裏側は日章小学校に面しているなどと述べられた以外は全く抽象的な説明しかされなかつたにもかかわらず、それ以上の説明をさせ、または自らこれをすることはしなかつたため、原告は具体的な反論の主張、立証の機会を与えられることなく、口頭審理は終結となつたものである。
この点に関して、被告は周辺の土地の評価額を原告に開示することは、納税者の秘密に属する資産状況が公にされる結果を生じ、地方税法二二条(秘密漏えいに関する罪)及び地方公務員法三四条(守秘義務)に抵触する旨主張するので検討する。地方税法四一五条は、市町村長は毎年一定の期間課税台帳をその指定する場所において関係者の縦覧に供しなければならないことを規定しているが、その趣旨は納税者にその所有する固定資産の評価額を知る機会を与えるとともに、その評価額が公平妥当な額であるか否かを検討させることにあるものと解される。従つて、右規定により納税者が縦覧できる課税台帳の範囲は、納税者自らの所有する固定資産に関する部分に限らず、他の周辺の固定資産に関する部分についても自己の所有する固定資産の評価額との間に均衡がとれているか否かを検討するために合理的に必要な範囲のものと解される限り縦覧しうるものと考えられる、そうすると、本件口頭審理において被告が周辺の土地の評価額を原告に開示することは秘密をもらすことにはならないというべきである。
第四 以上のとおりであつて、被告は本件口頭審理において標準宅地の所在位置、その時価、算定根拠を開示せず、かつ、本件土地の周辺の土地の評価額または路線価を開示することをせず、原告が不服事由を明らかにし、不服事由に対する原告の反論の主張、立証の機会を与えることなく本件審査申出を棄却する決定をした点において、本件審査手続は違法のものというべきであり、本件審査決定はその余の点につき判断するまでもなく取消を免れない。
第五 よつて、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
別紙(省略)